IR資料(決算説明資料)は、株主や投資家だけでなく、証券会社や投資銀行など、幅広い市場関係者が目にする重要な資料です。近年はSNSなどで資料の一部が発信されることもあるため、デザインがイマイチだったり、必要な情報が伝わりにくかったりすると、会社の印象を悪くしてしまうことも。

そのため、IR資料は株式市場における会社の顔ともいえます。

そこで今回は、IR資料をわかりやすく作成するためのコツや注意点、参考になるIR資料の例などをご紹介します。

なぜわかりやすいIR資料が重要なのか

IR資料とは、企業が投資家や株主、金融機関などのステークホルダーに向けて、自社の経営状況や財務情報、将来の方針などを伝えるための資料のことです。IRは「インベスター・リレーションズ(Investor Relations)」の略で、企業と投資家との信頼関係を築くための情報開示活動を指します。

IR資料の主な目的は、企業の価値や成長性、安定性を正しく理解してもらい、資金調達や株価の安定化につなげることです。対象者は、既存の株主だけでなく、将来的に株式を購入する可能性のある投資家やアナリスト、金融機関、その他にも取引先や従業員、求職者なども含まれます。

つまり、IR資料は投資家や株主、その他全てのステークホルダーにとって、企業の経営状況や戦略を判断する重要な情報源となるのです。そのIR資料のデザインや情報が整理されていなくてわかりにくい場合、正確な理解につながらず、企業への関心や投資意欲を失わせる可能性もあります。

一方で、誰にでも理解できる言葉や図表を用いて、事業の強みや成長性、リスク要因を整理して伝えることができれば、投資家の信頼を獲得し、長期的な関係性構築につながります。また、わかりやすいIR資料は海外投資家や非財務情報に関心を持つステークホルダーに対しても有効です。

IR資料の質は企業価値の見え方を左右するため、わかりやすいIR資料を作成することが重要なのです。

わかりやすいIR資料とは?

わかりやすいIR資料を作るには、そもそも多くの人が「わかりやすい」と感じるのはどのような資料なのかを理解することが重要です。多くの人が見てわかりやすいと感じる資料には、以下の共通点があります。

  • 伝えたいメッセージが明確になっている
  • 箇条書きや図解で情報が整理されている
  • グラフや図表などを効果的に活用している
  • 適度な余白がある
  • フォントや色使いが統一されている
  • 無駄な装飾がなくシンプルで洗練されている
  • 資料の構成が論理的に組み立てられている

わかりやすい資料は、上記のことがしっかりと守られており、読み手へのストレスが少なく内容も理解しやすい工夫がされています。

わかりやすいIR資料を作成するコツ

IR資料は、前述したポイントを意識するだけでなく、特有の難しさや意識すべき点があります。わかりやすいIR資料を作成する際は、以下のコツを押さえておきましょう。

  • 1スライド1メッセージで構成する
  • 財務情報は視覚的に伝える
  • 難解な専門用語や略語は避ける
  • 色使いやレイアウトを統一する
  • 資料全体にストーリー性を持たせる

1スライド1メッセージで構成する

IR資料では、1枚のスライドに複数の情報を詰め込みすぎると、読み手にとって内容が伝わりづらくなります。そこで重要なのが「1スライド=1メッセージ」の原則です。

例えば、「今期は増収増益であった」「主力製品が成長を牽引した」といった1つの主張だけに焦点を当て、それを補完する数字や図表を配置します。こうすることで、伝えたいことが明確になり、聞き手の理解と記憶に残りやすくなるでしょう。

財務情報は視覚的に伝える

IR資料には多くの数字が出てきます。しかし、数字の羅列だけでは、イメージが掴みにくく、読み手に内容が伝わりにくくなってしまいます。

売上や利益、成長率などの財務データは、可能な限り棒グラフ・折れ線グラフ・円グラフなどで視覚化し、トレンドや割合がすぐに把握できるようにしましょう。また、グラフには適切なタイトルや補足コメントを添えることで、「この数字から何を読み取るべきか」が明確になります。

※ただし、軸のスケールや表現方法(色や形)によって、実態以上に良く見せる“誇張グラフ”にならないよう注意が必要です。

難解な専門用語や略語は避ける

IR資料は、プロの投資家や業界関係者だけでなく、個人株主や社外の非専門家も見る可能性があります。業界用語や略語を多用すると、内容が理解されにくくなったり、資料全体が難しく感じられたりするでしょう。

そのため、できるだけ専門用語や略語を使うことは避けて、一般的な文言にすることが重要です。もし、専門用語や略語を使う場合はスライド内に簡潔な説明を加えるか、資料の最後に用語解説を設けることが有効です。

誰が読んでも内容が理解できるように配慮することが、信頼性の高いIR資料作りの基本です。

色使いやレイアウトを統一する

色やレイアウト、フォントの一貫性がないと、資料全体がバラついた印象になり、読み手の集中力が落ちてしまいます。重要なキーワードは常に同じ色、見出しや本文のフォントやサイズは統一するなど、資料全体に統一感を持たせましょう。

基本の色使いは3色までとし、それぞれの使う量のバランスは以下の配分を心がけると良いです。

  • ベースカラー:70%(資料の背景色など、大部分を占める色)
  • メインカラー:25%(資料の印象を決定付ける主役の色)
  • アクセントカラー:5%(強調する部分に使う1番目立つ色)

上記の配色比率にすることで、美しく洗練された印象を与えることができます。グラフや図表を用いる際も上記の色使いを意識し、細かく色分けしたい場合は同系色で彩度や明度に違いをつけると良いです。

また、余白を適切に取り、情報を詰め込みすぎないことで、視線の流れをスムーズにし、見やすく、理解しやすいデザインになります。デザインの4原則といわれる「近接」「整列」「反復」「コントラスト」を意識しましょう。

資料全体にストーリー性を持たせる

IR資料は単なる情報の羅列ではなく、「ストーリー」として構成されていることが重要です。単に数字や情報を羅列するだけでは、読み手にとって企業の全体像や将来性を理解するのが難しくなります。

ストーリー性のある構成とは、例えば「市場環境→自社の立ち位置→実績→課題→今後の戦略や成長の可能性」といった流れで、読者が自然に内容を追えるように設計することです。この流れがあることで、情報がつながりを持ち、読み手は企業の現状と未来像を具体的にイメージしやすくなります。

特に、初めて企業に触れる投資家にとっては、この一貫性が理解促進と信頼獲得の鍵となります。

わかりやすいIR資料の参考例5選

実際に公開されているIR資料の中から、参考になるIR資料の事例を5個紹介します。

株式会社Goodpatch

出典:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS04618/6bd56dbe/a6ad/41f4/b3d7/8544c2ce3b10/20250114131340244s.pdf

1スライド1メッセージがしっかりと守られており、スライドごとに伝えたいメッセージがしっかりわかりやすく記載されています。適度な余白があり、色使いや文字のサイズによって強調すべき部分に自然と目が向くようにデザインされているため、読み手は見やすく内容も理解しやすいです。

株式会社Enjin

出典:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS04881/17db1333/4b3a/4967/bed6/8dc9db592643/140120250114550135.pdf

こちらの例も、1スライド1メッセージがしっかりと守られており、グラフや図表が中心となっているため、情報が非常に読み取りやすいです。全体的にテキスト量が少なく、窮屈感が少ないため、読み手はストレスなく内容を理解することができます。

ブランディングテクノロジー株式会社

出典:https://global-assets.irdirect.jp/pdf/tdnet/batch/140120250212570924.pdf

こちらのIR資料は、財務状況の報告だけでなく、ストーリー性のある構成で事業の優位性や今後の見通しがしっかりと説明されており、将来性を伝える工夫がされています。全体的に図表による説明が多く、テキストを読まなくても内容がスッと理解できるように情報が整理・視覚化されている点も、参考になる良い例です。

Sansan株式会社

出典:https://data.swcms.net/file/ir-corp-sansan/dam/jcr:9df7555e-cb80-4dd5-8d97-089c5e8b752c/140120250114550594.pdf

こちらのIR資料は、凝ったデザインというわけではありませんが、シンプルながら配色のバランス、レイアウト、構成などしっかりとデザインの要点が押さえられた良い参考例です。表やグラフで財務状況をわかりやすく整理しており、テキスト量も少なくスッキリした印象ですが、しっかりと伝えたい情報が理解しやすい資料になっています。

株式会社マーキュリー

出典:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS09153/b92d6287/e476/4869/ab1f/3e3547215aa9/140120250110549521.pdf

こちらの資料は、適度な余白がしっかりと確保されており、1スライドに詰め込まれている情報量がスッキリしているため、内容が理解しやすくなっています。表やグラフ、アイコンのような視覚的にわかりやすい要素が中心になっているため、読んでいてストレスがほとんどありません。

わかりやすいIR資料を作成する際の注意点

わかりやすいIR資料を作成しようと意識して作ったとしても、逆に読み手に取ってわかりにくくなってしまうケースもあります。そうならないためにも、以下の点に注意しましょう。

  • 余白と情報量のバランス
  • 強調表現の使用頻度
  • 色の相性

余白と情報量のバランス

IR資料をわかりやすく作成するには、1スライドあたりの余白と情報量のバランスに細心の注意を払う必要があります。情報を詰め込みすぎると、どこを見ればよいのかが分かりにくくなり、読み手にストレスを与えてしまいます。

一方で、余白が多すぎると情報が少なく、中身がない印象を与えてしまうでしょう。適度な余白と情報量を確保することで、しっかりと伝えたい情報を伝えつつも視線の流れがスムーズになり、強調したいポイントも際立ちます。

伝えたいメッセージを明確にし、その補足として必要最低限の情報とビジュアルを配置することが、説得力のある資料作成の基本です。

強調表現の使用頻度

IR資料には、読み手に伝えるべき情報がたくさん詰め込まれています。そのため、様々な箇所で文字を太くしたり色をつけたりといった強調表現を用いることがありますが、これらを多用しすぎると情報の優先順位がわからなくなってしまいます。

強調表現は、1スライドに1~2か所程度に絞り、要点を効果的に伝えるために活用するのが理想的です。

色の相性

文字やグラフなどに色をつける際は、その他の部分に使用している色との相性に注意しましょう。色の相性が悪いと、コントラストが不足したり、視認性が低下したりして情報が読み取りにくくなってしまいます。

特に淡い色同士や類似色の組み合わせは避け、見やすさを意識した配色設計が求められます。また、強調したい情報にはアクセントカラーを用いるなど、色に意味を持たせるとより伝わりやすくなります。

誰にでも見やすく、整理された印象を与えるために、色使いは非常に大切な要素です。相性の良い色使いが具体的にイメージしにくいという方は、配色サポートツールを活用してみましょう。

IR資料はプロに任せる企業も多い

冒頭でも説明した通り、IR資料は企業の財務状況や今後の見通し、将来性を正しく伝え、理解してもらうための重要な資料です。IR資料が持つ役割の大きさを考慮すると、内容だけでなくデザインにこだわることも重要だということがわかると思います。

そのため、IR資料の作成をデザイン制作会社に依頼するという企業は多くあります。デザイン制作会社であれば、資料の構成から細部のデザインに至るまで読み手のことを考えたわかりやすいIR資料の作成ノウハウを持っているため、資料の質を高められるでしょう。

株式会社フリースタイルエンターテイメントは、IR資料をはじめとした様々な資料の作成をサポートしています。デザイン実績1,000件以上の、パワーポイントに精通したプロのデザイナーが、読み手にとってわかりやすいIR資料を作成します。

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わかりやすいIR資料で透明性のある決算報告を

IR資料は、企業の信頼性や成長性を市場に伝える重要な情報源であり、株式市場における会社の顔ともいえる存在です。資料の構成やデザインがわかりやすく整理されていれば、投資家からの理解や共感を得やすくなり、企業価値の向上にもつながります。

今回紹介したコツや注意点を参考にして、読み手に正しく情報が伝わるわかりやすいIR資料を作成してみてください。質の高いIR資料作りに不安がある場合は、プロの制作会社へ依頼することも有効な選択肢です。